組織再編について
効率的な会社運営や、会社の事業拡大のためには、組織再編は今や欠かせない手段となっています。
会社法上規定されている制度だけでも、
1.事業譲渡(ここでは組織再編に含まれるとします)合併
2.会社分割
3.株式交換・株式移転
が挙げられ、効果を最大限発揮するには、組織再編の各種手法の内容を把握し、適切な手段を採用することが重要です。
事業譲渡について
事業譲渡とは、事業を取引行為として他に譲渡する行為をいいます。
経営の効率化のために事業を別会社に譲渡して分社化したり、事業拡大のために他の会社の事業を譲り受けて更に事業の拡大を図ることが考えられます。
また、会社の債務超過状態を解消するために事業譲渡を用いることも考えられます。
事業譲渡の対価によって得た金銭を債権者に弁済することや、赤字が続く事業部門を別の会社に譲渡することによって経営の健全化を図ることもできます。
もっとも、事業譲渡は、債権者を害する行為として、詐害行為取消の対象となる可能性があるため、弁護士に相談するなど、慎重に行う必要があります。
事業譲渡とよく似た制度として会社分割がありますが、会社分割は分割事業が包括的に承継される組織法上の行為であるのに対して(包括承継)、事業譲渡は契約で限定された範囲で財産等を移転の対象とする取引法上の行為(特定承継)であるという点で本質的に大きく異なります。
事業譲渡と会社分割の主な相違点をまとめると以下のようになります。
※横にスクロールすることで続きが見れます。
事業譲渡 | 会社分割 | |
---|---|---|
競業避止義務の有無 | 当然義務を負う (事業譲渡の定義より) |
新設分割計画または吸収分割契約の定めによる |
個別の承継手続 | 必要 | 不要(ただし、対抗要件の取得は別途必要) |
免許・許認可の承継 | 譲受会社が改めて取り直す必要あり | 業法によって引き継がれるものもある |
税金 | 資産移転等に伴う登録免許税及び不動産取得税は高額となる 資産の移転は消費税の課税対象取引となる |
合併と同様の扱いとなり軽減措置がある 資産の移転は消費税の課税対象外取引となる |
従業員の引き継ぎ | 個々の従業員の同意が必要 | 個々の従業員の同意は原則不要 |
債権者保護のための手続 | 特に事業譲渡特有の法律上の規定なし | 異議催告手続 |
合併について
合併とは2つ以上の会社が契約によって1つの会社に合体することです。
当事会社の1つが存続して他の消滅する会社を吸収する場合(吸収合併)と、当事会社のすべてが消滅して新しい会社を設立する場合(新設合併)とがあります。
合併の結果、一部または全部の会社が解散によって消滅すると構成するため、合併は消滅する会社にとっては解散の一場合です。
もっとも、合併の場合は、消滅会社の財産は存続会社または新設会社に包括的に承継され、消滅会社の株主は合併手続の中で対価の交付を受けるため、清算手続は不要です。
会社分割について
会社分割は、1つの会社を2つ以上の会社に分けることをいいます。
多角経営化した企業がその一部を独立させて経営効率の向上をはかったり、不採算部門あるいは新製品部門を独立させたり、他の会社の同じ部門と合弁企業を作るなどして利用されます。
会社分割には、分割する会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を既存の会社に承継させる場合(吸収分割)と、分割会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を新しく会社を設立してその会社に承継させる場合(新設分割)とがあります。
一般に、会社分割の対価となる株式等が分割会社に交付される場合を物的分割(分社型分割)、分割会社の株主に交付される場合を人的分割(分割方分割)といいます。
会社分割の手続は、債権者・株主・労働者の各利害関係人に配慮した規定がありますので、分割計画書(契約書)の作成、事前備置書類の開示、株主総会の承認決議、債権者保護手続等の規定に違反しないように会社分割を進める必要があります。
また、会社分割の方法により事業承継を行ったとしても、承継会社が分割会社が使用していた名称を継続して使用していた場合には、分割計画書(分割契約書)により引き継がれる債務が限定されていたとしても、承継会社は分割会社が負担していた債務を負わなければならないとされた事例もあり、商号等を継続使用する場合には注意が必要です。
株式交換・株式移転について
株式交換・株式移転とは、ある株式会社がその株主総会の特別決議の承認等により他の株式会社の100%子会社となる取引である。
親会社となる会社が既存の会社である場合を株式交換、新設会社である場合を株式移転といいます。
この制度は、持株会社の設立を容易にするために導入された制度ですが、企業買収の手段などとしても利用することができます。
組織再編の各種手法の特徴をまとめると以下のようになります。
※横にスクロールすることで続きが見れます。
特徴 | 手続(売り手側) | 手続(買い手側) | 対価 | |
---|---|---|---|---|
事業譲渡 | 事業を取得 取引行為 ↓ 個別承継 |
取締役の業務執行の一環 重要な財産の処分にあたる場合は取締役会決議 事業の全部または重要な一部の譲渡の場合は株主総会特別決議 |
取締役の業務執行の一環 重要な財産の譲り受けにあたる場合は取締役会決議 事業の全部の譲り受けの場合は株主総会特別決議 |
通常は現金 |
合併 | 複数の会社が結合 包括承継 |
(消滅会社) 株主総会特別決議 書類の備置・閲覧 反対株主の株式買取請求 債権者保護手続 |
(吸収合併存続会社) 同左 |
通常は買い手の株式 |
会社分割 | 事業を取得 包括承継 |
(分割会社) 株主総会特別決議 書類の備置・閲覧 反対株主の株式買取 請求 債権者保護手続 |
(吸収分割承継会社、新設分割会社) 同左 |
売り手に対して、通常は買い手の株式を渡す |
株式交換 | 株式を取得 包括承継 |
(完全子会社) 株主総会特別決議 書類の備置・閲覧 反対株主の株式買取 請求 債権者保護手続 |
(完全親会社) 同左 |
売り手株主の株式を買い手株式と交換する |
株式移転 | 株式を取得 包括承継 |
(完全子会社) 株主総会特別決議 書類の備置・閲覧 反対株主の株式買取 請求 債権者保護手続 |
(完全親会社・新設会社) 書類の備置・閲覧 |
売り手株主の株式を買い手株式と交換する |