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この記事では、以下の内容について解説しています。


  • 就業規則とは
  • 就業規則を労働者に不利益に変更することができるのか
  • 就業規則の変更について争われた事件

就業規則とは

多くの労働者が働く会社において、労働条件を公平・統一的に設定し、効率的な事業経営のために制定する規則が、就業規則です。

常時10人以上の労働者がいる場合使用者は就業規則を作成しなければなりません(労働基準法89条)。

この労働者には派遣の方は含まれませんので、例えば、正社員5人、アルバイト2人、パート1人、派遣3人の合わせて11人が働いている会社では、89条にいう労働者は派遣の方を除いた8人なので、この会社では就業規則を作成する義務はありません。

就業規則には、始業終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払時期、昇級に関する事項、解雇事由を含む退職に関する事項、退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の定めをする場合には、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法支払時期、臨時の賃金等が記載されます(労働基準法89条)。

就業規則を変更するには、まず、就業変更案を作成し、過半数の労働者が所属する労働組合がある場合にはこの労働組合、このような労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなくてはいけません。

もっとも、意見を聴けばよいのであって、同意を得ることまでは必要ありません。

そして、この聴取した労働者側の意見を書面にして添付し(労働契約法11条、労働基準法90条2項)、労働基準監督署長に届け出ます。

さらに、この変更を労働者に周知しなければなりません(労働契約法10条)。
周知するとは、労働者が知り得る状態におくことをいいます。

就業規則を労働者に不利益に変更することができるのか

就業規則を労働者に不利益に変更することができるのか、どのようにすれば変更することができるのかについては、後で紹介する秋北バス事件(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決)以来さまざまな判例が形成され、平成19年11月に成立した労働契約法では、判例によって形成された法理がそのまま明文化されたのが労働契約法10条です。労働契約法10条は次のように定めています。

「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則の定めるところによるものとする。

ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。」

この条文が定めていることをわかりやすくいうと、就業規則の変更を周知させ、その変更が合理的であれば、労働者の合意がなくとも、変更後の就業規則の内容が労働者の労働条件となるということです。

つまり、ある労働者が就職したのち、会社が就業規則を変更して賃料を減額しようとした場合、その変更を周知させ、賃料を減額することが合理的といえるのなら、その労働者が変更に合意しなかったとしてもその者の賃料は減額されるということです。

そして、就業規則の変更が合理的かどうかをどのように判断するのかというと、労働者が変更によってどの程度不利益を受けるのか、変更することが必要なのか、変更後の就業規則の内容が相当であるか、変更するにあたって労働組合等とどのような交渉をしたか、その他の事情を判断の基礎事情とするとしています。

就業規則の変更について争われた事件

どのようにすれば、変更が合理的といえるのでしょうか、これまで就業規則の変更について争われた事件をもとに、みていきましょう。

  1. それまで、定年の定めのなかった主任以上の者の定年を55歳と規定した場合(最高裁昭和43年12月25日判決秋北バス事件)。

    定年制は人事の刷新、経営の改善等、企業の組織・運営の適正化のために行われるものであって、55歳という定年が産業界の実情に照らしかつこの会社の一般職の定年が50歳とされていることから低いとはいえないこと、さらに、再雇用の特則が設けられていること、中堅幹部をもって組織している会の会員の多くがこの条項をみとめているという事情を総合的に考慮して不合理ではないと判断しました。

  2. 合併に伴い退職給与規定を改定したことによって、一部の労働者の退職金支給倍率が低減してしまった場合(最高裁昭和63年2月16日判決大曲市農協事件)。

    新規程への変更によって、退職金支給倍率自体は低減されているものの、給与額は、合併に伴う給与調整等によって、退職支給倍率の低減による見かけほど低下していないこと、合併によって生じた従業員相互の格差を是正することの必要性が高いこと、合併によって、休日・休暇、諸手当、旅費等の面において有利な取扱いを受けるようになったこと等を考慮して本件改定を合理的であると判断しました。

  3. 定年年齢を55歳とし、退職後の労働者を再雇用し58歳まで雇い入れるという制度をとっていたのを改め、定年年齢を60歳に延長し、55歳以降の賃金を引き下げるという就業規則の改定を行った場合(最高裁平成9年2月28日判決第四銀行事件)。

    裁判所は、労働者の不利益は、賃金という労働者にとって重要な労働条件に関するものであることから、就業規則変更の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものでなければならないとし、本件改定によって労働者が受ける不利益はかなり大きいと認定しました。

    しかし、60歳定年制の実現が不可避的な課題として早急に解決するべき課題であり、高度の必要性があったこと、55歳以降の賃金を引き下げることについても人件費の増大、人事の停滞を抑えるために必要であり、特に中高年層の多い本件銀行においては賃金を引き下げる高度の必要性があったこと、また、変更後の労働条件の内容は他の銀行と大差なく、賃金についてはかなり高いものであったこと、労働者には定年が60歳に延長されたという利益があること、行員の90%で組織された労働組合との交渉、合意、労働協約を経ていることから本件就業規則の変更を高度の合理性の基づいた合理的な内容であるとしました。

    もっともこの判決には、裁判官の反対意見で、本件変更が賃金という重要な条件についての関するもので、不利益の程度が著しいものであったことから、変更するにあたって何らかの経過措置をとることについて具体的に検討し判断するべきであるとの意見が付されました。

  4. 55歳に達した労働者の賃金を減額した場合(みちのく銀行事件・最高裁平成12年9月7日)。

    裁判所は、経過措置を設けるべきであり、それがないままに労動者に不利益のみを受忍させることは相当でないとして、変更を無効としました。

  5. 年功制賃金制度を能力主義・成果主義的方向に変更された場合(大阪高裁平成13年8月30日判決ハクスイテック事件)。

    会社の経営状態が赤字となっているときには、賃金の増額を期待することはできないというべきであるし、8割程度の従業員は賃金が増額しているので、不利益の程度はさほど大きくはない。

    収益改善のための措置を必要としていたこと、労働組合と合意には至らなかったものの、実施までに制度の説明も含めて5回、その後の交渉を含めれば10数回に及ぶ団体交渉を行っており、労働組合に属しない従業員はいずれも新賃金規程を受け入れていることから、新給与規定への変更は、合理性があるとしました。

以上のように、合理性の有無はそれぞれの場合に応じて個別具体的に判断されます。

そして、就業規則を不利益に変更する場合、変更が賃金等の重要な条件である場合、より変更は慎重に行わなければならず、変更の高度な必要性が要求されています。

そして、例え多数組合の合意があったとしても、変更の不利益が大きすぎる場合には合理性が否定されることもあります。

あなたの会社の就業規則は、大丈夫ですか?