降格が無効となるのはどのような場合か?

降格とは

降格には、課長や部長といった役職を下げるもの、職能資格制度上の資格や職務等級制度上の給与等級を下げるものがあります。

なお、役職を下げるものを特に降職という場合もあります。

職能資格制度とは、社員の技能・経験の積み重ねによって得た職務遂行能力を資格化して給与を決める制度です。

職能資格制度では、職務が変わっても資格は変わらず、給与が減ることは原則ありません。

これに対し、職務等級制度とは、職務に応じて等級に分類し、その等級ごとに給与を決定する制度です。

職務等級制度では、職務と給与の結びつきが強く、仕事が変わると給与が当然に変わります。

降格の適法性

降格に共通する法的な規制

男女雇用機会均等法は6条2号において、性別を理由として、降格について差別的な取り扱いをすることを禁止しています。

ですので、例えば、同じ条件のもと、男性は降格させなかったのに、女性を降格させたという場合には、この降格は均等法に違反し無効となります。

また、性別を理由としていなくとも、実質的にみると性別を理由としている場合には、この降格もやはり均等法に違反し、無効となります(均等法7条)。

さらに、労働組合法は、組合員であることを理由として不利益に社員を扱ってはならないと定めているので(労働組合法7条1号)、組合員であることを理由として降格することも、無効となります。

降格の種類に応じて異なる適法性の判断基準

役職を下げる理由、職能資格制度上の資格を下げる降格か、職務等級制度上の等級を下げる降格かによって、適法性の判断基準が異なります。

降格を以下の4つに分けて、それぞれの降格の適法性をどのように判断するかをみていきましょう。

①懲戒処分として役職を下げる降格

②勤務成績の不振などを理由とし人事異動として役職を下げる降格

③職能資格を下げる降格

④職務等級制度の等級を下げる降格

懲戒処分として役職を下げる降格

懲戒処分としての降格には、労働契約法上の懲戒処分についての規定(労働契約法15条)が適用され、降格をするには、就業規則に規定された降格の理由に該当する場合であって、降格することが相当であることが必要です。

降格が懲戒処分としてされたものであると判断されると、後述する人事異動としてする降格よりもその適法性の判断が厳しくなりますので、裁判上、当該降格が懲戒処分としてなされたものであるか否かが争われることが多くあります。

就業規則に懲戒処分としての降格の規定があったとしても、降格がすべて懲戒処分となってしまうわけでなく、制裁としての降格でないと判断されれば、人事異動の降格となります。

勤務成績の不良などを理由とし人事異動として役職を下げる降格

終身雇用制度をとっている場合、特定の職務のために社員を雇うのではなく、雇った後にさまざまな経験を経た上で、それぞれの能力に応じた職務に就かせることが予定されています。

なので、このことを前提として雇った社員をどのような職務につけるかについては会社が権限を持ち、原則、会社は自由に降格をすることができます。

一方、職種を一定のレベル以上で限定して雇った場合、例えばヘットハンティングなどで中途採用した場合には、この社員は職種を一定のレベル以上に維持することが保証され、社員の同意を得ずに降格をすることはできません。

そして、終身雇用を前提とし、能力に応じた職務に就かせることが予定されている社員でも、降格とすることが社会通念上著しく妥当性を欠く場合には、会社が降格する権限を濫用して行使したとし、降格が違法となってしまいます。

社会通念上著しく妥当性を欠くか否かについては、使用者側の業務上・組織上の必要性の有無、およびその程度、能力・適性の欠如等の労働者側における帰責性の性質その程度、当該企業における降格の運用状況等の事情を総合考慮して判断されます。

裁判で権限の濫用であるとして降格が無効になったものには、医療法人財団東京厚生会事件(東京地裁平成9年11月18日判決)、近鉄百貨店事件(大阪地裁平成11年9月20日判決)があります。

医療法人財団東京厚生会事件は、勤務表の紛失等を理由に看護婦長を平看護師にした降格が問題となった事件です。

記録の紛失は一過性のものであり、管理職としての適性能力を否定するものとはいえないこと、近年この病院では降格がされたことが全くなかったこと、勤務表の紛失したことによって病院に損害が生じていないことから看護婦長を平看護師にした降格を無効としました。

近鉄百貨店事件では、勤務態度が悪いことなどを理由として百貨店の部長待遇職から課長待遇職への降格が問題となりました。

裁判所は、降格によって給与が月に4万8000円も減ってしまったこと、降格が部長待遇職についてから2年という短い期間のうちになされたこと、勤務態度が悪くなってしまったのは、当該社員のこれまでの業績への配慮がたりなかった会社にも責任があること、勤務態度が改善されつつあることなどを理由として、降格を無効としました。

職能資格を下げる降格

職能資格は、社員が会社の中で得た技能・経験の積み重ねによって上昇していくことが予定されています。

したがって、社員の合意を得ずに職能資格を下げるには、就業規則で職能資格を下げる事があることが定められているなど、労働契約上の明確な根拠が必要となります。

また、例え明確な根拠があったとしても、この降格が著しく不合理な評価によるものであり、社員に著しく大きな不利益となる場合には、権限の濫用として降格が無効となります。

職務等級制度の等級を下げる降格

職務等級制度の定めに従い等級を下げるのは、会社の権限の範囲に含まれるので、会社は、原則として、自由に降格をすることができます。

もっとも、等級をする理由となるような理由がないにもかかわらず、他の動機により、降格をするような場合には、会社は権限を濫用して行使したとして無効となります。

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