現状

この記事では、以下の内容について解説しています。


  • 原状回復義務とは
  • 敷金の返還時期
  • 原状回復義務の具体的範囲
  • 借主負担特約の有効性

原状回復義務とは

賃貸借契約の終了により、入居していた建物を出る際、借主は物件をもとの状態に戻して返還する義務があります。

これを原状回復義務といいます。

もっとも、「もとの状態」といっても、新築同様の状態ということではありません。
入居後に新たな設備を付け加えた場合、それを取り外し、机やパソコンなどの物品は全て搬出した状態のことです。

では、建物そのものについた傷や汚れ等は全て回復する必要があるのでしょうか。
新築の物件をどんなに注意深く大切に使用していたとしても、長く使用していれば、ある程度の傷や汚れが発生するものです。

こうした劣化を「通常使用による損耗」といい、その回復は原則として貸主が行うことになります。

ですので、ごく普通の使い方、常識的な使い方をして発生した損耗については、回復費用を借主が負担する必要はありません。

これに対し、借主の故意、あるいは過失によって生じた傷や汚れなどは、原則として借主の負担となります。

敷金の返還時期

敷金は、借主が家賃の支払いを怠った場合の滞納賃料や、物件を傷つけてしまった場合の損害賠償金を担保するためのお金なので、借主の負担すべき回復費用が確定しない限り、返還されません。

原状回復義務の具体的範囲

原状回復義務の範囲について、旧建設省は平成11年に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を発行しています(平成16年2月に国土交通省住宅局が改訂。さらに平成23年に再改訂)。

ガイドラインそれ自体に法的強制力はないものの、裁判所が概ねガイドラインに沿った内容で判断する場合が増えてきているため、事実上法律と同じような効果を持ち始めています。

原状回復義務の具体的範囲を考えるにあたっては、「物的範囲」の問題と、「経過年数」を考慮しなければなりません。

たとえば、物的範囲の問題として、壁のクロスについて、ガイドラインは「平方メートル単位が望ましいが、借主が毀損させた箇所を含む一面分までは張り替え費用を借主に負担させることができる」としています。

また、経過年数について、ガイドラインは、減価償却における耐用年数経過後の残存価値が1円になるような直線(または曲線)により残存価値を判断することとしています。

よって、6年経過したクロスの場合、借主としては最大でも毀損箇所を含む一面分につき、修繕費用のうち1円を負担すればよいことになります。

その他にも、借主が負担すべきか否か、しばしば問題となるものについてまとめると以下のようになります(ただし、具体的な事情によって結論が変わることがあります)。

損耗箇所
負担者
理由
壁の画鋲・ピン穴
貸主
カレンダーなどの掲示は日常的に行われるため
床の傷(キャスター付きのイス等でつけてしまった場合)
借主
注意すれば防げるものであり、借主の過失といえるため
机等設置による床やカーペットのへこみ
貸主
会社で机等の設置は必須であり、必然的にできてしまうものであるため
引越作業で生じたひっかきキズ
借主
借主の過失とされることが多いため
鍵の交換代
貸主
防犯上の観点から行われるものであり通常使用では借主が負担する理由がないため

借主負担特約の有効性

契約条項の中に、原状回復に要する費用を(通常使用による損耗も含め)全て借主負担とする特約や、ハウスクリーニング代として決まった額を借主の負担とする特約が存在することがあります。

こういった特約は、裁判例の流れからすると、

  1. 特約の必要性があり、暴利的でないという客観的で合理的な理由の存在すること
  2. 通常の原状回復義務を超えた修繕義務を負うことが契約上一義的に明確であること
  3. 借主が特約による義務を負担すると意思表示をしていること

という3つの要件が必要になります。
このうちどれかが欠ければ、貸主は借主に「通常使用による損耗」の修繕費を請求できないわけです。

もっとも、営業用物件については、居住用物件に比べて特約の効力が有効と判断されるケースが多い傾向にあります。